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登山と登山計画書

そういえばニュースで「遭難者は登山計画書(登山届)を提出していなかったとみられます・・・」といった形で取り上げられいる。

そんなニュースを見ると、今度山に登る予定だけどそれって自分にも必要なものなの?などと疑問に思うことがある。

登山人口は増えているため、この登山計画書が自分に関係あるのか分からない、提出する義務があるのか分からない、何のために提出するものか分からない、そもそもその存在を知らないという人も必然的に多くなっているように思う。

そこで、これから登山をする人や登山計画書についてあまり知らないという人のために、登山計画書について解説する。


登山計画書とは

登山計画書は、登山予定者や山、ルート、装備品等の情報を記載する紙である。

登山届入山届などと呼ばれることもある。

登山計画書の書式例

登山しようとする人は、これを家族や勤務先、所属の山岳会、管轄の警察署等の関係機関に提出する。

登山計画書を提出しておけば、登山中の道迷い・滑落・病気・ケガなどで身動きできなくなってしまうなどの遭難事故となったときに、登山計画書に記載された情報をもとに捜索や救助をしてもらうことができる。

山全体をくまなく捜索しなければいけない場合に比べ、捜索にかかる時間等を減らすことができるというわけだ。

これは、遭難者自身の生命・身体の保護にとって重要である他、救助してくれる方々の二次災害の防止という点からも重要である。


登山計画書の提出義務

2016年5月現在、日本で登山計画書の提出が法律上義務付けられている山は限られている。

したがって、登山計画書を提出するかどうかは、基本的には登山者の意思に委ねられいる登山者としてのマナーのひとつである。

登山計画書に関する全国的な法律はなく、義務付けられる場合は、各地の条例によって個別に対応されている。

条例により登山計画書の提出が義務付けられているのは、

1.群馬県谷川岳の危険地区における一定期

2.富山県剣岳周辺の山岳地帯の一定期間

3.岐阜県北アルプス地区

4.長野県の指定登山道(2016年7月1日施行)

である。

特に、群馬県と富山県の条例には罰則が付いていて、違反者に対して罰金刑を科すことができるようになっている。


登山計画書の提出方法

登山計画書は、

・家庭、山岳会、職場、学校

・山域の登山指導センターや案内所、登山口のポスト、山域の都道府県警察本部地域課、警察署、交番、駐在所

に提出する。

山域によって異なるが、郵送の他、メールやFAXで提出できる場合もある。

また、ある程度登山者が多い山域には、登山口にポストが設置されていることが多く、そこに投函すれば良い。

ただし、条例等により10日前に提出する義務を定めている例もあり、その場合には郵送などの方法により指定機関に提出する必要があるだろう。

登山計画書を提出する場合、基本的には、

①家庭や職場など自分の生活の身近なところに1通渡しておき、

②登山当日に登山口のポストに1通を投函し、

③登山中の自分の控えとして1通を携帯する。

という方針で問題はないことが多い。

また、公益社団法人日本山岳ガイド協会がコンパスというサイトで、インターネット上で登山計画書を提出できるサービスを提供している。

このサービスを使うと、登山予定ルートもインターネット上の地図を利用して作成することができ、大変便利である。


登山計画書を作成・提出する意味

なぜ登山計画書を作成して提出するかというと、以下のような点が指摘できる。


登山計画が緻密になる

登山計画書を作成する場合、そこに予定ルートを記載することになる。

予定ルートを記載しようと情報を調べると、その山域に存在する登山ルート、各ルートの特徴、予定ルートの通過にかかる時間の目安等の情報に触れることになる。

それにともない、必要な装備具や食料について必要なものが分かってくる。

漠然と自分の頭の中で登山ルートを思い浮かべる場合と比べ、登山の計画は必然的に緻密になり、遭難リスクや遭難時の危険は減少する。


遭難時の救助可能性が高くなる

登山中、道迷い・滑落・病気・ケガなどで身動きが取れなくなってしまった場合、自力で下山できずに救助が必要なときは、できる限り正確に今いる場所を伝えることが必要である。

しかし、自分でも正確な場所が分からなかったり、待機している家族等が通報したりする場合には、登山計画書をもとに捜索範囲を絞ることができるため、迅速に捜索し救助することができる可能性が高くなる。

遭難者が自分で通報して、今いる場所を伝えることができれば登山計画書の役割は少なくなるが、やはり補助情報としてあった方が良いだろう。

また、自分でルートや各地点の名称を思い出せない場合には、やはり登山計画書があればそれをもとに情報を伝えることができる。


二次災害リスクが減少する

迅速に捜索し救助される可能性が高くなるということは、救助する側の方々の二次災害の危険も減少することになる。

救助作業自体が危険を伴う作業であり、その範囲を小さく限ることができ、短時間で終えることができるのあれば、登山計画書の持つ意味は非常に大きい。

登山者にはは、自らが作り出した原因により他人の生命・身体に対する危険を必要最小限にすることが当然求められて良い。

いくら危険を覚悟で職務を行っているとはいえ、その人にも家族がいるかもしれないし、心配する人は必ずいる。

それらの方々に過大な迷惑をかけるようなことは避けなければならない。


目撃情報などの情報を収集できる

遭難者が出た場合、遭難者自身の登山計画書をもとに捜索や救助態勢がとられるであろうが、他の登山者から目撃情報を収集して、遭難者の行動履歴を調査する必要がある場合もある。

その場合、登山計画書に記載した連絡先に連絡が取れれば、関係機関が、遭難者以外の登山者から必要な情報の収集をすることができる。

登山計画書は、自分自身だけでなく、他人の捜索・救助について有益な情報提供の機会にもなる。


登山者が複数いる場合、情報を共有できる

複数人のパーティで登山する場合、行動予定等について、全員が把握しておく必要がある。

登山計画書を作成すれば、行動予定に関する基本的な情報をパーティで共有することができる。


責任者が果たすべき非常時対策の役割

複数人のパーティで登山する場合、リーダーや責任者を決めておくことになるが、その責任者には、法律上、他の登山者が安全に登山できるよう配慮する義務が生じることがある。

そして、その義務の中には、非常時に速やかに救助してもらえるような態勢を築くことが要求されることもあり、関係機関への登山計画書の提出がその義務のひとつとなるケースも考えられる。

もし登山計画書を提出しないで登山し、そのことが原因で同行登山者の生命や身体に被害が及んだ場合、責任者が損害賠償責任を負わなければならない可能性が出てくる。

責任者としては、自分の義務を果たすためにも、登山計画書の提出が要求される。


登山計画書を提出すべき山

私個人としては、どのような山に登るときでも登山計画書は提出すべきだと考えている。

ただ、ちょっと自宅の裏にある山に行くというときまできっちり提出をするのは現実的ではない。

その場合には、少なくとも家族や近所の人に一声かけるくらいが現実的だろう。

その他の場合、例えば高尾山などは都心から近く、気軽に登れる山であり、登山する人もたくさんいる。

特別な技術は必要なく、特に経験がなくても登ることができる山のひとつである。

他にも、全国には特に技術や経験が必要でない山は多くある。

それらの山に登るときにもいちいち登山計画書を提出する必要があるかといわれれば、ある。

どんなに簡単な山でも、体調や体力、ケガ、天気の変化、日没等により想定外のビバーク(特定の場所で一夜を明かすこと)自体は起こり得る。

街の中では何も考えなくとも周囲に明かりはあるのが普通だが、山の中では、月夜でない日に日没ともなれば周囲は視界のきかない真っ暗闇になる。

また、特に危険個所がない尾根歩きが中心といった場合でも、一部急な崖になっているというケースは多い。

普通なら難なく通れるが、登山途中の健康状態等によっては、普段どおりの能力で行動できる保証はないから、少なからず危険はつきものである。

特に難しい山でなくとも、また危険性の少ない山でも、街にいるときよりも格段にリスクは高いのであるから、登山計画書を提出しておくことに越したことはない。


まとめ

法律的に考えると、「登山する権利」というものが保証されているわけではないと考えられるので、「合理的な理由なく登山することを制限されない利益」といった限度で認められるといった感じかもしれない。

山に登ろうとすること自体そもそもはその人の自由であり、何ら責められるべきことではない。

ただ、この登山計画書をめぐり、ニュースで取り上げられた遭難者が批判を受けたりすることがある。

個人的には、ある程度の危険を受け入れ、登山を楽しむ方々を尊敬しているし、自分もその一人である。

見たい景色は、往々にして多少の危険の先にあったりもする。

しかし、登山計画書の問題によって、登山を楽しむ人や登山そのものに対して悪印象を抱かせてしまうのは何とも悲しい。

それが積み重なれば、過重な規制へとつながり、これまでどおり登山を楽しむことができなくなる可能性だって生じてしまう。

自分の非常時の対策という意味はもちろん、安全を願ってくれる周囲の人・登山に関わっている多くの人に対する配慮の意味でも、また、山に対して敬意を払うという意味でも、登山計画書について理解し、自分で判断するということが求められている。

現在の法律状況によれば、条例で届出が義務づけられている場合にはもちろん提出する必要があるが、そうでない場合には法的に見れば登山計画書の提出は、登山者の意思に委ねられている。

その場合は、山の標高・山の性質・登山ルートの状況・季節・年齢・性別・経験・人数・道に迷う危険性・滑落の危険性・過去の山岳遭難事故の状況等をふまえ、届け出をするかどうか自分で判断すべきであるが、基本的には登山計画書を提出すべきである。

いずれにせよ、登山計画書を提出せずに遭難した場合には、遭難時に生命・身体に対する危険性が高くなるだけでなく、救助する方々の危険性も高めてしまうし、無事救助されても社会や周囲の人から誹謗中傷を受けかねず、それを気にする人の場合には精神的にも大きなダメージを負ってしまう。

把握できる限りでやるべきことはすべてやり、気持ちよく山に登るというのが誰にとっても良い。

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